
先人の知恵を訪ねて ~見習い店長さんたろうの聖地巡礼~ 0話
広島・宮島育ちのカエルのさんたろう。
彼は父親の背中を追い、自分の店を持つことを夢見て、東京で修行に励む見習い料理人。
この物語は、見習い店長さんたろうが、店長としての心構えや知恵を学ぶため、全国各地で長年店を営む先人たちの教えを請い歩く旅物語である。
第0話 さんたろうの旅立ち
ここは新橋ガード下にある居酒屋「ガマの店」。
まだ陽は高く、通りは静かだ。
ワシは夕方の開店に向け、ガマ油をぬぐいながらキャベツを切っとった。
すると突然、真剣な表情をした、店の親父さんに声をかけられた。
店の親父さん(以下、親父)「さんたろう、お前に大事な話がある。」
さんたろう(以下、さ)「何でしょうか、親父さん。」
親父 「…お前に、『ガマの店』の看板を譲ろうと思う。」
一瞬、目の前が真っ白になった。
親父 「オレはもう年だし、体にも限界がきている。
店をたたむことも考えたが、40年続けてきた店が無くなること、常連さんたちのことを思うと、どうしても踏ん切れなかった…。
さんたろう、お前は器用でこそないが、5年間真面目に修行してきた。ウチの看板を任せられるほどに成長したとオレは思っている。」
さ 「親父さん…でも、ワシは…ワシは…!」
ワシは飛び上がり、サラリーマンで賑わう雑踏の中へ、跳ねだしていた。
親父 「おい! さんたろう! どこに行くんだっ!!」
いろんな感情が一気に押し寄せてきて、ワシはどうしたらいいか分からなくなっていたんじゃ。
無我夢中で飛び跳ねて、気づいたら日比谷公園の池のほとりに来とった。
もう日は沈み始めとった。
修行でつらいとき、いつも思い出すのは、故郷広島の宮島で毎日ガマ油をたらし、もみじ饅頭を作る父の後ろ姿じゃ。
宮島一のもみじ饅頭職人だった父に憧れて、いつしかワシも父の店を支えたいと思うようになった。
でもそれは無理な話だった。
店は長男のいちたろう兄ちゃんが継いだ。
口惜しかったが、それも仕方ないことじゃと思った。
さ 「それならワシは、自分の力で店を持つんじゃ!」
ハタチの時に故郷を捨てて上京した。
そこで「ガマの店」の親父さんに出会ったんじゃ。
さ 「勝手に店を飛び出してきてしもぉたが…。
いったい親父さんはワシの何を見て、大事な老舗の看板を任せられるゆぅて思うたんじゃろうか。
店の仕事はできても、どうしたら長ぅ(なごぅ) お店を続けられるか…お客に愛されるんか…
ワシにはまだわからんのじゃ。」
こぼれそうになる涙を抑えながら顔を上げた、その時じゃった。
目に入ったのは、買い出しから帰ってきたらしい、大量の食材を抱えて走る、若いコック姿の青年じゃった。
さ 「…ワシにもあんな時があったのぉ。
父ちゃんみたいに腕一本で自分の店を持つこと、いつまで経っても、こればっかしゃぁ諦めらりゃぁせんのだ…!」
ワシは立ち上がり公園をあとにした。
急にお店を跳ねだしてしまったことを後ろめたく感じながら、そっと店の扉をあけた。
店内はすでに、仕事帰りのサラリーマンたちで賑わっていた。
さ 「…親父さん、遅ぉなってすみません!」
親父 「おお、さんたろう。戻ってきたか、心配したぞ。」
さ 「…親父さん、ワシに一年時間をつかぁさい。
未熟者のワシゃぁ老舗の看板を継ぐ自信がまだありません。
だから、外に出て、長ぅお客に愛され、店の看板を守り続ける、どえりゃぁ先輩たちに教えを請うてまわりたいんじゃ。
立派な大将ガエルになって帰ってくるけぇ、どうか修行に行かせてくんない!」
しばらく黙った後、親父さんは静かに、でもはっきりとした口調で言ったんじゃ。
親父 「さんたろう…。そういうことなら、行ってこい。オレも『ガマの店』をお前が安心して継げるように準備しておかなきゃいかんな。
さんたろう、頑張ってこい。」
そう言って焼き場に戻っていく親父さんの背中は、父にどこか似ていた……。
こうして、ワシは一年間の、日本の隠れた老舗・名店をめぐる修行に出ることになった。
はやく一人前の大将ガエルになった姿を親父さんに見せるべく、頑張らんとのぉ!
「待ちょぉってのぉ、親父さん!!」
(第一話に続く)
さんたろう
店長応援サイト『店長AGOGO』のキャラクター。
年齢:?才
出身地:広島・宮島育ち
生い立ち:宮島一のもみじ饅頭職人を父に持つ。
夢:父親の背中を追い、自分の店を持つこと。
一念発起し、一年間、日本の隠れた老舗・名店をめぐる修行をしている。
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